ちょっとぬけた

記録のために書いておく。 不調の時期を抜けたっぽい。少し元気になってきた。

走りつかれて眠るまで

すこしばかり体調の良い期間が続いて「わあもうすっかり元気！」みたいな多幸感のなかにあるかと思ったら、やっぱりだめなときは相変わらずだめみたいだ。逆戻り。想定内といえばそうだけれど、がっかりはしてしまう。揺れているのはいつものことでしょう。そうですね。そうであったことを思い出しました！

それでも変わった部分もあって、一番大きな変化は今現在の体調の悪さに気づけるようになったことだろう。おとなしく眠るのではなく、こうしてただただ言葉を垂れ流し続けているときは調子はかなり悪いのだと思う。喋らなくていいことまで喋り（そうしてわたしの喋ることは大体が言わないほうがいいことだ）、延々と終わりがない。天候のせいだろうか？　それとも身体のバイオリズムの？　とはいえ細かいところを見るのをやめた世界に身を置いているときは、穏やかだけれど物は書けない。少しも言葉にならない。言葉に頼らなくても平気だからかもしれない。不幸じゃないとモノが書けないなんて言説は信じていない、でも穏やかなときに叫ぶ必要はさしてないから。散歩と、かんたんな料理と、窓の外を眺めることくらいしかしない。

いま何かができるわけでもないのに目を見開いて、感情の振れ幅が大きいことだけを確認している。揺れている。そういう状態なのだ、ということを、ここに書いておく。

仕事で、いくらか文章を書く。編集もする。誰かの相談に乗り、もっともらしいことを言っている。目の前の成果物を何かしらの論理に基づいて分解をしたり（一応そういう行為が出来ているということにして）、「狙い」に合わせて修正したりする。そういうわたしが、わたしの行為が、わたしの生活を支えている。だけれどそのときのわたしは、もう一人の、もう一方の岸にいるわたしの姿をちっとも見ないのだ。川を渡ったまま帰らずに、おなかをすかせたわたしのことを放ったままで、何をしてるの。「健康」で「健全」で「普通」で「外れていない」ふりをしている。でも対岸のわたしについて、周囲の人はみんな知っているよ。知っていて、知らないふりをしてくれている。わたしもそれは知っていて、でも知らないんだよねってことにして、出来る限りの擬態をする、でも大してうまくないんだよね、そのことも知っている。

ぼうけんの記録（魔女の森編）

ゴールデンウィーク前哨戦とでもいうべき週末であった。大宮に続いて、AさんとYさんと3人で前橋へ出かけた。目的は前橋文学館で開催されている川口晴美さんの『世界が魔女の森になるまで』展である。展示はもちろん、川口晴美さんの作品朗読会があるということで、それを聞きに行ったのだ。 www.maebashibungakukan.jp

朝、東京駅で待ち合わせた。行きは各駅停車で、帰りは新幹線に乗ろうと相談して決めていた。友人と各駅停車に乗っておしゃべりしつつ移動するのが楽しみでならなくて、浮かれるあまり待ち合わせ前に梅の飴玉とレモングミ、あと炭酸水を買った。今回も完全に気分は遠足であった。

前橋は風がすごく強い土地だった。この風はなんなんだろう、というと、Yさんが山があるからじゃないかな、と言っていた。山から吹いてくる風。その土地特有の地形や、独特の気候に少しでも触れられるのは、その場所へ行く醍醐味だなと思う。画面越しにはなかなか体験できない。駅におかれたピアノは行きも帰りも誰かしらが弾いていて、子どもたちがピアノの周りに集まっていたりしてほほえましかった。駅前の通りにはここでも立派な欅が植わっていた。

街中を流れる水辺を辿って前橋文学館へと向かった。お昼ごはんを食べ、展示を見て、ガシャポンをまわして、展示された言葉をゆるゆると追った。

朗読会では最後の群読に圧倒された。そこでこぼされた苦しそうな声は社会の中に数多にあるもので、可視化されつつあるけれど普段は目で読んでいることが多い。あの群読では、音となり立体になって迫ってくるそれに触れられたような気持ちになった。聞いているときもじっと、できるだけ視覚より聴覚が優位になるように、目を伏せていた。

朗読の間に挟まれる作品についての川口さんご自身の解説を聞きながら、小さく反発する気持ちがあることに気づいた。その反発が出てくるたびに「なんだなんだ」と思った。どうしてわたしは説明された内容に反発しようとするんだろう。違和感のあることはなにも言っていないと思う。じゃあ一体、何から？　耳を傾けながらそうやって自分の中でやり取りをし続けていた。少し前までは反発するだけで、その気持ちがなぜ生まれてくるのかをあまり考えられなかった。

わたしはここ数年で「想像」という言葉や行為をあまり信じられなくなった。シスターフッド、フェミニズムといったキーワードも以前ほどには。様々な場所でフェミニストが行うトランス女性差別を目にしてきたことに起因する部分もあるが、素朴に自分の「想像力」など、大して信じるに値しないと思うようになったからだ。自分の想像力を働かせるより、目の前の相手の状態や言葉を、まず受け取りたいと思うようになった。

それは一つの態度の話で、そして自分がそうしたい、というだけの話でもある。誰かに同じようになってほしいわけではない。たとえば議論を交わしたとて、結果、わたしと同じ態度で、意見で世界に触れてほしいとは思わない。あなたがどのように世界に触れているか、それがまったく違うことを、わたしは知りたいと思う。とはいえ、揺れもするのだ。その揺れもまたよしにしたいと思っている。触れ方の違いや、今ここで語られているフェミニズムは、シスターフッドは、「誰」を受け入れてくれるものなのだろう？　という問いについてじっと考えて、揺れる。それができることはすごくありがたかった。揺れることが許容される時間。そんな空間であり、時間だった。

帰り道、その思考とともに、言葉になる前のやわらかい何かを抱えて帰ってこられた。自らが閉じているときには感じられなかった。長らくそういう時間がなかったことに、あとから気づいたりした。

ぼうけんの記録（大宮編）

先週末、遠方に住む友人と大宮観光に出かけた。友人と会うのは3年以上ぶりである。コロナ禍に入ってからはまったく会えていなかったことも、コロナ禍自体が3年経過していることにも、驚いてしまった。この3年、何やってたの？　自分でもよくわからない。一箇所に留まって整理し続けていたような気はする。

それはともかく、友人と大宮である。大宮には若いころに何度か来たことがあるが居酒屋で飲むばかりで、ちゃんと観光するのははじめてだ。大宮氷川神社の参道にはケヤキが植えられていて、緑が大変きれいだった。神社の奥には大きな公園が広がっていて、池や、サッカー場や、小さな動物園などがある。大宮にはサッカーのチームがあるらしく、行った日はちょうど試合だったようで、サポーターのおじさんたちが、公園の売店でお酒などを飲みながら騒いでいた。試合の前にサポーター同士集まって、お酒を飲みつつ話して、時間がきたら試合を見て、きっと試合のあともああだこうだとやるのかなと思ったら、うらやましくなってしまった。そんなの間違いなく楽しい。

わたしと友人はそんなおじさんたちやピクニックをしている親子連れを横目に、動物園を周って、気まぐれに動いていた飛行塔に乗るなどして過ごした。年甲斐もなくいいのかなあ、とつぶやいたら、友人が、それを言われるとわたしもつらいです！　と笑っていた。昭和の頃からそのままの飛行塔に乗る経験なんてなかなかないだろう。飛行塔のゆったりとした感じが、穏やかで大変よかった。絶叫マシーンにはもう乗れないけど、小さな飛行塔くらいなら今後も乗れそうな気がする。帰りにはしっかりお団子も食べた。

こういうゆるやかな遊びを友人とするのがわたしはとても好きで、この予定が決まってからすごく楽しみにしていた。「遠足ぽいし、小銭を持っておやつを買いにいきたいなあ」などと考えているとき、自分が「やりたい」と思うことの多くはこういった手の中におさまるもので、既にやったことがあることでもあり、ただそれを「叱られずにやりたい」、と思っていることに気づいたりもして、なんとなくそういう……なんだろうな、怯えてきた部分があることを一つずつわかって、楽になっていくのは毎回、不思議な体験だなと思う。

半径2メートル、時間としては24時間

六連勤の最終日。人を管理しているわけではないのだが、仕事を管理する仕事はしていて（ややこしい）今日はすこしばかりトラブルがあったりして大変だった。誠に申し訳ありません。そんな風に謝るときにも、あまり心は動かなくなったなと思う。とはいえ適当に謝っているつもりもなくて、誰しも失敗やミスはするものだから、ただそのことをきちんと認めて謝ればいいのだと思って対応している。大抵はひどいことにはならない。それについては環境が良いのだと思う。

夜は久しぶりに人とご飯を食べに行った。なにやらとてもおしゃれなお店で、こういう、人が作ったおしゃれなものに久しぶりに触れたなあと思う。ホワイトエールを見て美しいな、とぼんやりしたり、楽しい時間を過ごして帰ってきたけど、家についたらやっぱり疲れてるな、と思った。そりゃそうか。

過去にあった出来事について、つい再現するように行動してしまうことについて考えていて、そういうときって動けなくなっているときかもしれないなと思った。一歩さえ動いていないとき。遠くに行きたい。遠くに行きたいと思うけど、なかなか遠くに行けない。わたしは常にわたしの半径2メートルくらいの、そして時間としては24時間くらいの範囲しか見えていないから（24時間は言い過ぎかもしれない、せいぜい16時間くらいか）、もしかしたらすでに遠い場所に来ているのかもしれないけど、それをうまく認識できずにいる。

無視しすぎだよ

飲み会の席で会社の先輩から「自分にできることを無視しすぎだよ」と言われた。自分にできることをちゃんと認識していないから、他者のできること、できないことの捉え方が甘くなるんじゃない？　といった文脈で。うまく意味が取れなかったが、しばらくしてから、そうだな、と思った。これまで先生から言われた「あるものを捨てるな」も「もっと自分を許してあげなさい」も、同じことを違う言い方で言っているだけかもしれない。

駅までの道を先輩と歩きながら、恩があるので返していかないといけないと思ってます、と自分の口から出てきたことにも驚いてしまった。確かに恩はある、と思う。なかなか伝わらないかもしれないけれど、今の場所は、忙しかったり、大変なこともあるけど、他の場所では得られなかったものを得られたし、差し出してもらったなと思っている。仕事だけじゃないな。今住んでいる場所や、周りにいてくれている人にも、たくさんのものをもらっているよな。

泳いでいく

一年経ってしまった。何をやっていたのだろうか。まったく記憶にない。記憶にないが忙しかったり大変だったりという感じではあった。ほぼ混乱のなかを過ごしていた。表現もしなくなり、話したいこともあまりなく、詩などの本もほぼ読まなくなり、一年で何が変わったか。体重が10キロ減った。あとは心が何かを感じるセンサーのようなものが鈍くなり、というか何も感じたくなくなり、「こう思った」よりも「ただ手を動かす」ような、そういう時間を過ごすことが増えた。

それでも今日この日記を開いたのは、少し何かを書いてみる時間が欲しいような気がしたからだ。中国語の勉強は相変わらずしている。これもどこかパズルのようなものだなと思う。楽しんではいる。自分の中でひとつずつ整理していくことが増えて、棚卸し、棚卸し。心理検査をするように、と言われ、おすすめされた医療機関に予約のメールを送った。何も大変ではない、ただ恐ろしさのようなものを感じた。怖いのか、と思った。なにが？　愚かものだとばれてしまうことが？　すでにみんな知ってるよ、そんなことは。

それをまた棚卸しして、愛されたくて求めた「わたし」という像を、そんなものは幻である、ただの虚像である、努力の末に辿り着く先ではなく、絶対にどこまでいっても辿りつけないものである、という事実と向き合っている。つらくはない。この状態になれるまで20年近く費やしてしまった。そのことが少しだけ悲しい。その20年があったならもっと別のことができたかもしれないね、と思う、とはいえそれも詮無いことなのだけれど。誰かに愛されたいのではなく、ただ自分を許したい、それだけ。