おまじないだよ

去年末に起こった、といっても別にいまはじまったわけでもないのだけれど、いつもの、そういつもの身内のごたごたに疲れ、諦めようと思いながらもときどき発作のようにどうにか取り戻せないか、となる。相手にそれを告げては叶わないことにがっくりして、あきらめなければ、の繰り返し。

気持ちは簡単に整理はつかないし、もうプリンのしずけさしか食べたくなくなってコンビニに寄った。他人が通ることを少しも気にせずにのろのろとコンビニの入口をふさぐ青年ふたりにひどくイライラした。こういう気持ちになるのはよくないことだとわかるけど、なぜ世界は自分中心にまわっているのだとばかりにのろのろしていられるのか、その呑気さを体現したような動きにどうしようもない気持ちになる。実際のところは知らないが。

プリンを買ったあと、そうだ、遺言状を書いておこうと決めた。時間がいくら経過しても、別にわたしのこころは穏やかにはならない。いまわたしを穏やかにしてくれるのはわたしが死んだあとに残ってしまう予定のものをどうするかを決めておくという行為だけだ。決めておけば誰も手だしできない（絶対ではないにせよ）。

最近すべてそういうかんじで、生きていくために今後悩みになりそうな種は種のうちにつぶしてしまう。そうしないとふらふらとしていてあぶない。いまは悩む可能性を、手放さずにそばにおいておくということができない。そういう力がない。

正しいことはいつだって正しいままのすがたで訪れるけれど、そういうものが救ってくれることはない。そんな死んでしまったあとのことを考えるなんて、と声がしては、でもそれをしないとわたしは安心できない、安心できないのだ、と思う、そういうことを、普通に話したところでわかってはもらえないと思う。

大勢のなかにいて口からもろもろの笑みらしきものをこぼす。もろもろとしたそれが崩れていくさまを、俯瞰した目で思いながら、次第に自分のからだも崩れていく。ぼかぁね、わたしぁね、そんなふうにつらいっておもったけど、なんとかいきていますよ、いきていけるんですよお、にんげんですからぁ、じかんがたてば、うすれていくもんですよ、そんなひかんして、ひげきのひろいんみたいになっちゃって、とかなんとか、こえはたえず、これはわたし自身の声。

美しい正しさ、それは間違いを肯定できてしまう、美しい正しさ。それを言えることがうらやましくってまぶしい。チュールのスカートのような蛹を片っ端から引き裂いて回りたいような気持ちとはちがう、そう、若いみどりが芽吹いていくような、蝉がなんねんも土のなかで眠って、やっと地上に出てきた、そのときの姿のような。いつだって美しいものはそういうすがたで現れる。

わたしにできたのは、できるのは、金属バットを振り下ろすことだけ。