みる、つかう、おもう

わたしがいますごく右に左に揺れているのと、何を具体的に考えているか、の説明をちゃんとしないので、そのことが意外と周りを混乱、というか心配させてるんだなと思い、今日はこれまでと、いま考えていることを書いておきたい。
ここを読んでる方はご存知かと思いますが、去年の10月から陶芸をはじめました。
ごくごく個人的なことですが、わたしのものづくりは全部「ひとが生きて死ぬとは」という問いからはじまっています。おそらく誰しもが一度は考えることですし、そのことについてのはじまりは話し出すと長くなる、周りの人には幾度となく聞いてもらった話なのでここでは割愛しますが、その問いがわたしの中でものを書くことと、わたしの目を通して見える世界に在る、多くの「境界線」に強く結びついていました。いまはどうだろう。「境界線」についてはちょっとわかりません。わたしの中にあった多くの「境界線」はいまはあまり無いようにも思います。あっちもこっちもまるっとひとつ、になってきているようにも思えます。
わたしは一昨年ぐらいから小説を書こうとしていました。二次創作ではなく、オリジナルの。けれど書こうと決めたはいいけれども、書いても書いても書けない。毎日机に向かうし構成も考える文章も書く。けれども一向に進まない。書いてもそれはなんだかふわふわとした字面だけのもので、こうじゃない、こうじゃないと思う日々を過ごすうちに、しまいには何も書けなくなってしまったんです。周りのせいにもしました。やつあたりもしたし、逃げもしました。しまいには仕事まで辞めてしまった。もちろんそれだけが理由ではなかったですが。
けれどもそんなことで書けるようになるはずはなく、ああだめなんだ、と思った。わたしには書けないんだと。大げさですが、そのときはそう思ったし、がっくりしてしまったんです。
言葉には今までものすごくこだわってきました。自分が相手のちょっとした言葉で傷つきやすい性格だったのもありますし、へんなところでずれているので相手を傷つけることも多かったから。こだわりすぎてしまった感もあります。日本語が好きで、本当に好きで、それで描かれた物語も、本も漫画も映画も舞台も大好きで。それはいまも変わりません。
小説が書けないのかもしれない、と思って、しばらくしてからわたしはふと、そもそもわたしは何か伝えたいことがあったのだろうかと考えるようになりました。考えるうちに、わたしは実は何も伝えたいものがなかったのかもしれない、ただ自分の存在を誰かに気づいてほしかっただけか、とも思い、そのことにも二重でがっくり。
けれど時間がたつと不思議なもので、どんなにがっくりしていたって人間元気になるものなんですね。また何かを伝えたいと思うようになってきた。作りたいと思うようになってきた。今度は自分の存在を投げるためのものでなく、もっとちがったかたちのものを投げられるんじゃないかと思うようになってきて、誰かが楽しくなったり、うれしくなったり、しあわせになったりするものをつくりたい、と思うようになりました。
そしてそれは言葉ではなくてもいいんじゃないか。
伝えるにはいろんな方法があって、歌でも踊りでも、フェルトでもビーズでも。芝居でも、詩でも小説でも。わたしはとにかく言葉にこだわってきたけど、実はほかにも伝える方法はあるんじゃないかと。とにかくなにか小説以外のものをやってみよう。かつ、自分の体の内側だけをめぐり存在を誇示するためのものでなく（一般論としての小説でなく、わたしのかいてきた小説はたいていそういうものでした）もっと身体的で、感情に近い何か。かつ、誰かに喜んでもらえるもの。
それをつきつめて考えるうちに、はじまりのテーマに戻り、生きることは食だし、食だったらわたしもちゃんと好きなことだ、ならそれを支えるうつわを作るのもいいんじゃないか、って思いにたどりついたんですね。それで陶芸だったんです。
陶芸をとにかくいますぐはじめてみて、もし自分に見込みがあるなとちょっとでも思えたら仕事を辞めて東京を離れて学校に通うつもりでした。それは陶芸をはじめると決めたときに考えていたことです。技術を身につけるには集中してやるのが何よりの方法とすでに知っているのでどこかに入るのが一番いいと。幸いにも、陶芸には職業訓練校や各産地に指導所などがあり、授業料も安い。岐阜にいこうかどうしようかと迷っていたのも、これです。如何せん先立つものがないということで今年は見送りました。あとまだ自分にも迷いがあった。
今年はお金をためるというのと、今できることをやり残さずにやる、というのがあるので動かないとは思うんですが、今年の中盤からはもっと具体的に次のことを考えていかなきゃいけない。本当にやりたいのか。それとも趣味でいいんじゃないのか、とか。本気でやるにしても、今の先生に弟子入りするのがいいのか、産地にとんで修行をするのがいいのか。選択肢はたくさんあって、その中からわたしは選んでいくんだと思います。

思い描くのは何よりも誰かに伝わっていく「楽しさ」。

わたしが最近うつわを見に行ってるのは見て触って、とにかくどんなものかを知りたくて。それは自分の勉強のため。いまはいろんなうつわを見るのが大事だと思ってます。もちろん気に入って家に連れて帰れたらなによりだけど、自分の好みもまだよくわかっていないので、それはもうちょい時間がかかるかな。見て、色や形や手取り、技法についていまは感覚で学びたいと思っています。細かい知識はあとから調べる。知識から実物、ではなく、実物から知識に還る、そんな方法をとっています。
と同時に、いろんな人の新しい考えに触れる機会を得ていて、それは本であったりネットであったり、お店の人やギャラリーのひと、先生から、とさまざまだけど、みんなそれぞれ自分の哲学があって、それを正しいと思って前を向いている。それはその人の正解であって、わたしの正解ではなく、わたしはわたしの正解を見つけたいと思っているんです。

ここ数日わたしが悩んでいたのは、うつわを積極的に買ってみようとしているなかでこんなことを言うのはなんですが、伝える側がものの絶対的な価値を決めてしまうのはちがうんじゃないかな、と感じていて。値段というはなしじゃないですよ。材料費やら手間賃やらいろいろあるので、値段が上がるのはしかたのないことなんです。最初はこれは高い、と思ったんです。値として単純に高い。でもよくよく考えたらけして高くない値段なんです。それで買えるひと、買えないひと、買うひと、買わないひとはでてくるし、デパートならまだしもギャラリーとなればさらに手にとれるひとのハードルはあがってしまう。それがいまの現実で、しかたのないことだとわかります。けれど。
作家のこころを感じられるうつわはすばらしいものです。けれど、工場で作られているであろううつわだって同じなのではないか、と思います。作品としてまったく同じ、というはなしをしているんじゃないですよ。すごく誤解を生みそうだからこうやって繰り返しいわなきゃいけなくて難しいんですが、作家の作品も、工場生産のものも、選ばれる、という立場において同じなのではないかと思うんです。お客さんが自分の気に入ったものを選ぶ、という意味では同じです。
食事もそうです。手作りの料理はすごくすばらしい。毎日豊かな食生活をおくれることはなによりのこと。けれど、コンビニのお弁当だって、スーパーのお惣菜だって、食事、という意味では同じです。
わたしが言いたいのは、他人のそれを、他人が批難することはできない。どんな生活をおくっている人にも、自分の生活を選ぶ自由がある、ということです。
いまは丁寧な生活がちょっとしたブームになっているようにも思います。田舎生活や健康志向、ロハスな生活、そういったものに憧れるひともけして少なくない。
けれどコンビニ弁当が、レトルト食品が、絶対の悪かといったらそうじゃない。ここ数日そういった現代にいきる人々の、生活の現実というか、そういった部分を否定するような言い分を見ていて（もちろん、そういうつもりじゃなかったのかもしれないですが）、なんというか、どうしたらいいかわからなくなってしまった。
健全な生活がそんなにも絶対的にすばらしく、他の人の生活を否定できるものなのかと。
いや、もちろん体や環境のことを考えたら、すばらしいことではあるのですが、わたしが言いたいのは、すばらしいものをすばらしいと伝えるだけでいいのではないか、ということです。それ以外のものを批難したり、否定したりする必要はないってことなんです。自分の思う正解がすべてで、それが絶対で、それにあてはまらない他人は否定するなんて、それは嫌だなと思った。
環境を大事にするのはもちろん大切なこと。生活を丁寧に紡いでいくこともなによりも大切なこと。そういう生活は美しいとわたしも思うし、できるならしたいと思う。けれど、多忙な日々の中、コンビニのお弁当を食べる、やっとそこで一息つく、いつも食べているけれど、涙がでるほどおいしく感じる、そういう生活をしているひとがいます。間違いなくいます。そういう選択があることも、その存在も、否定してはならないんじゃないかと思います。
それは人としてのどうこうという問題ではないんです。いろんなひとがいるってことです。
だからこそもっと間口が広がってもいいんじゃないかと思っています。
毎晩コンビニのお弁当を食べている誰かが、もしブームにのって自分の好きだなと思ったうつわを買って、それに移して食べるようになったら、そのひとの生活は少し変わるのだと思う。良いか悪いかはわかりません。けれど確実に変わります。それが作家のうつわであっても職人のうつわであっても工場でつくられたうつわであっても、うつわに移す、それだけでちょっと気分が違います。
選ぶのは相手です。もちろん大事にしてもらえるひとのところへ、小説であってもうつわであっても伝わっていくことにこしたことはないけど、こういう人にだけ伝わってほしい、という風にはならないでほしい、そう思っているんです。
これからきっと作家の作ったうつわはもっと人の手に渡っていく時代になっていく。そういうものに価値をおいて大切に使っていくひとももっと増えていくのではないかと思う。
だからこそもっと間口を広げたい。
それをわたしは具体的にどうやっていったらいいか、考えなきゃいけない。
うつわはひとにとってすごくやさしいものなんじゃないかと思うんです。
食べることにかかわるものですから、たのしく、やさしい、ものであってほしい。
悩んで悩んで、いろんなひとの意見に触れて、できるだけやさしくと、いまはすごくそう思います。