生活🐌の記録

いるようでいない、いないようでいる

ユリイカ

 少し前に青山真治氏の書いた小説「ユリイカ」を読んだ。

 バスジャックにあったバスの運転手と乗客の兄妹が死に直面したことで負った深い心の傷を、閉ざされた世界と他者との関わりの中で再生していく物語です。映画監督が本業である青山さんの文章は少々荒いんだけれど、脳内には映像がはっきりと映し出されるし、物語の結末には迫ってくるものがありました。映画をみてみたい。



 以下、好きな部分引用。




 たしかに梢は死のうなどとは考えていなかった。それが(中略)兄との約束であったから、それを憶えていたからこそ、この海の水を身体で受けようとし、それを隈なく目に焼き付けようとしたのだった。腹部に重い痛みを感じていた。それが何であるか梢にはなんとなくだが、分っていた。(中略)下腹部まで、水に浸かった辺りで、梢は歩みを止め、もう一度、できる限り大きく目を見開いて、海を見た。

《お兄ちゃん、見えよる?》

(中略)

《梢、海見よるよ》

 心に血を流すように搾り出したその声が、この少女を誰より気に懸けた直樹に、たとえどれだけ離れていようと届かぬわけはない。